今回は,「あなたの勉強法はどこがいけないのか?」を紹介します。
◆「あなたの勉強法はどこがいけないのか?:西村克彦著:ちくまプリマー新書」
西村先生の著書をブログで紹介するのは2回目です。1回目は2016年8月6日(土)にアップした「間違いだらけの学習論」を紹介したブログです(こちらを参照してください)。
今回,表題に書いた本を紹介しようと思ったのには理由があります。それは,今年,RCCMの試験に合格した知人の会社の方の言葉を聞いたからです(仮にAさんとします)。
Aさんの言葉とは,
「関連をつけて覚えたのがよかったです」
RCCMとは,土木技術者を対象とした民間の資格です。RCCMの試験では,「問題Ⅲ:管理技術力問題」として以下のような問題が出題されます。問題Ⅲでのポイントは,与えられたキーワードを入れて解答することです。キーワード間の関連を考えて解答を考える必要があります。
(1)安全で経済成長を支える国土づくり
設問①,②について,次の7つの用語「巨大災害」,「気候変動」,「タイムライン」,「一極集中」,「サプライチェーン」,「生産性向上」及び「コンパクト+ネットワーク」のなかから4つ以上を用いて記述しなさい。用いた用語は,解答用紙の文中にアンダーラインを引いて強調してください。
用語は①,②の全体を通して(「①のみ」,「②のみ」,「①,②併せて」のいずれも可),4つ以上を用いていればよい。
①わが国における安全で経済成長を支える国土づくりに向けた課題
②安全で経済成長を支える国土づくりに向けた課題への対応のあり方
このような問題の対策として,Aさんは,問題の中で与えられるキーワードを予想し,これらのキーワードの内容を覚えるとともに,各キーワード間の関連を考えたそうです。つまり,キーワードの内容を他のキーワードとの関連も考えて覚えたそうです。
一見無関係に思える,例えばXとYというキーワードでも,これらのキーワードの関連を考えるとキーワード間の関連がわかってくるそうです。
このようにしてキーワードの内容を覚えたところ,キーワード間でのネットワークができ,このネットワークが問題Ⅲでの解答を考えるうえで非常に役立ったそうです。
今回紹介する本の中で著者は以下のようなことを書いています。
事柄どうしに関連をつけることができれば,記憶は簡単にできると気がついたとします。ちなみに,この取り組み方は認知心理学で「精緻化」とよばれ,よく知られた方法です。
「精緻化」については,2016年8月6日(土)のブログにも書きました(こちらを参照してください)。
著者は,本の中で,読者に,以下の11の内容を機械的に丸暗記するように書いています。いろいろなタイプの男が登場し,横にはその男が取った行動が書いてあります。
①肥った男が 錠を買った。
②力の強い男が ペンキのハケを洗った。
③眠い男が 水差しを持っていた。
④背の高い男が クラッカーを買った。
⑤貧しい男が 博物館に入った。
⑥背の低い男が はさみを借りた。
⑦色の白い男が サングラスを買った。
⑧歯の抜けた男が コードを差し込んだ。
⑨目の見えない男が 袋を閉じた。
⑩親切な男が 牛乳ビンのフタを開けた。
⑪年とった男が 財布から金を出した。
機械的に丸暗記したら,男の取った行動が書いてある部分を隠したうえで,それぞれの男が何をしたのかを思い出してください。
機械的な丸暗記では,なかなか思い出せなかったと思います。
次に,以下の文を読んでください。これらは,ある特徴を持った男が,なぜそのような行動をしたのかの説明が書かれた文です。本の中では上記した11の行動すべて対しての説明がありますが,ここでは,3つを代表して書きます。
②力の強い男は,ウエイトトレーニングに使うバーベルにペンキを塗り,その後始末でハケを洗ったのです。
⑦色の白い男は,日光浴をして日焼けをしたいと考えました。日光浴の時にまぶしいといけないのでサングラスを買ったのです。
⑩親切な男は,お腹の空いている子どものために牛乳ビンのフタを開けてやりました。
このような説明文を読んだあとに,先ほどと同じように,男の取った行動が書いてある部分を隠したうえで,それぞれの男が何をしたのかを思い出してください。
今度は,楽に思い出せたと思います。
なぜ,機械的な丸暗記はきつく,説明があると楽になるのか?
その答えのキーワードは前述した「精緻化」です。説明があると,男と行動との間に関連がつくようなります。関連がつくから記憶するのが楽になります。
著者は,関連をつけて覚えることに関して認知心理学的な説明も加えています。その内容は,8月6日のブログにも書きましたが既存知識(既有知識とも言います:すでに持っている知識のこと)の働きです。しかし,今回のブログは,その説明を省略します。
Aさんの今回の勉強法も「精緻化」という考え方に基づく勉強法だと言えます。様々なキーワード間の関連を考えることで,キーワードの内容だけを個別に記憶する場合に比べて,個々のキーワードの内容をしっかり記憶できたと思います。その結果,様々なキーワード間でのネットワークが構築できたと思います。
資格試験の受験勉強をするうえで「関連をつける勉強法」は重要な勉強方法だと思いました。
【最後に】
この本は,中学生や高校生などの読者を対象に書かれているようです。算数の公式,かけ算・割り算,昆虫,磁石あるいは凸レンズなどを例にして勉強のコツを解説しています。「なるほど!」と思う箇所も多く面白い内容の本でした。