“一文一義”とは,1文の中に1つの事柄(こと)だけを書くことです。
以下の文を読んでください。
“昨日,メットライフドームまで西武ライオンズの試合を家族で見に行ったが,昨日の試合では,浅村,メヒア,秋山にホームランが出たことから西武ライオンズが福岡ソフトバンクホークスに8対0で勝利した”
この文は一文一義で書かれていません。1文の中に2つの事柄が書かれています。すなわち,「野球を見に行ったこと」と「西武ライオンズが勝ったこと」です。
この文は,2つの事柄が接続助詞の「が」で繋がれています。そのため,読んでいるとダラダラした感じがします。すなわち,内容が明確に伝わりません。
この文を一文一義で書いてみます。
“昨日,メットライフドームまで西武ライオンズの試合を家族で見に行った。昨日の試合では,浅村,メヒア,秋山にホームランが出たことから西武ライオンズが福岡ソフトバンクホークスに8対0で勝利した”
一文一義で書かれた文の方がダラダラした感じがありません。すなわち,文に切れ味が出ます。その結果,内容が明確に伝わります。
また,一文一義で書くと短い文が書けます。
「これまでに読んだ本から」で紹介した『わかりやすく<伝える>技術(こちら)』で,池上氏は以下のことを書いています。
(文を)短く切ると,一つの文が,一つの意味内容だけを届けることになります。ABCという三つの要素が全部入っている文を聞かせては,視聴者に余計な負担をかけます。それに比べて,まずはAの話,続いてBの話,そしてCの話と進めば,楽にきくことができ,非常にわかりやすくなります。
たとえば,三つの荷物(要素)を,相手(聴き手)のもとに届けるとします。三ついっぺんに運ぼうとすると,ヨタヨタしてしまい,なかなかたどりつけません。一回に一つだけにすれば,簡単に届けられます。それを三回繰り返せばよい。原稿も同じことだろうと考えました。
一つの文に入れる要素を一つに絞り,文をポンポンと切っていく。いっぺんにベタッと描くのではなく,一つ一つの話を重ねていくことで全体像を描いていく。たとえるのはおこがましいですが,名文家をいわれる人,たとえば,志賀直哉のような文章です。短い文を畳かけていくことによってわかりやすく伝えることができるな,と思ったのです。
注:冒頭の( )内は,こちらで付け加えました。
この本の中には,「一文一義」という語句は書かれていません。しかし,この文章の内容はまさに一文一義のことです。
このように,一文一義の考え方に基づき文を書くと短い文が書けるとともに,わかりやすい文(内容が明確に伝わる文)が書けます。
しかし,一文一義で書くと文が細切れになり,逆に読みにくくなることもあります。
“A社に来月提出する提案書(案)が作成できたので,メールで提案書(案)をお送りしますが,この内容に関する質問があれば田中までご連絡ください”
この文は3つの事柄が1文の中に書かれています。そこで,一文一義の考え方に基づき書いてみます。
“A社に来月提出する提案書(案)が作成できました。メールで提案書(案)をお送りします。この内容に関する質問があれば田中までご連絡ください”
確かに内容は明確に伝わります。しかし,文が細切れになり文章が読みにくくなります。文章に滑らかさがなく,ゴツゴツした感じがします。
例えば,以下のように修正すると読みにくさ(ゴツゴツした感じ)がなくなります。
“A社に来月提出する提案書(案)が作成できたのでメールで提案書(案)をお送りします。この内容に関する質問があれば田中までご連絡ください”
文を書く場合に,一文一義の考え方を適宜使うと,文を短く書けるとともに,読みやすく,かつ,わかりやすい文(内容が明確に伝わる文)が書けます。