「技術者の倫理」をテーマにしたブログを2016年9月8日(木)に掲載しました(こちらを参照してください)。そのブログで「日経コンストラクション」という専門雑誌を紹介しました。
その最新号の特集が「入札犯罪の“新潮流” 『密室の調整』から『抜け駆け』へ」でした。近年では談合がしにくくなったため,入札関係の犯罪の中で目立ってきたのが価格情報の漏洩だそうです。
以下の4パターンの事件を紹介しています。
◆常態化する価格の不正入手
*発注者からいかに精度の高い価格情報を入手するのかが営業活動の主な目的となった結果,情報の不正入手が常態化した例です。
◆接待を受けた事実が弱みに
*国の役人が一回不正に手を染めたため,そのことがわかるのを恐れて不正を重ねた例です。
◆“ブローカー”が局長室で賄賂
*地元対応などで発注者の信頼を得た建設業者がその関係を悪用し“ブローカー”として暗躍した例です。
◆発注者支援のコンサルが漏洩
*設計金額が,発注者支援業務を委託した民間企業から漏洩した例です。
この記事を読んでいて思い出すことがありました。入札犯罪とは違いますが,「技術者の倫理」に関することです。
2016年11月11日(金)のブログで会社員時代に現場計測業務をしていたことを書きました(こちらを参照してください)。
約30年前,シールド工法(こちら)による水路トンネル工事(うろ覚えですが)の現場の所長から,安全管理に関する管理値の改ざんを頼まれました。
新幹線の高架橋と在来線の高架橋(こちら)の基礎の下にトンネルを造るため,シールド工法でトンネルを掘っているときの高架橋の変位量を自動計測することで, 高架橋の安全管理をすることになりました。
私は,この計測業務の担当者でしたが,あるときその現場の所長から呼び出されました。
所長室内で所長から言われたのが,安全管理上の管理値の改ざんです。
「今回の計測システムのプログラムを森谷さんが作っていると聞いたが,高架橋の安全管理上の管理値をプログラム上で変えてくれないか?」
高架橋に設置した計測機器で自動計測した高架橋の変位量(データ)をパソコン内に取り込み,取り込んだ値と管理値をパソコンの画面上に表示するシステムです。
管理値は3段階あり,最も厳しい管理値を超えたら工事を中断することになっていました。例えば,この管理値を7mmとした場合,高架橋がトンネルの掘削に伴い8mm沈下したら工事を中断するようなことです。
パソコンは,トンネルの現場近くの計測小屋に設置しましたが,最も厳しい管理値を超えたら,現場事務所内で回転灯を作動させるシステムも考えました。
この管理値はプログラム内で設定するため,実際の管理値は7mmでも,プログラム内で管理値に3mm上乗せして10mmと設定すれば,高架橋が9mm変位しても現場事務所内で回転灯は作動しません。
パソコンの画面上でも,取り込んだデータと管理値の表示方法を細工すれば管理値の改ざんはわかりません。
所長は,管理値を超えても工事を中断したくなかったので,私に管理値の改ざんを依頼したと思います。もちろん,高架橋の安全にかかわるような大きな変位が発生すれば工事を中断したと思います。しかし,最も厳しい管理値に数mm程度上乗せした程度では高架橋の安全に問題がないと思ったのでしょう。
もちろん,「そのようなことはできません!」ときっぱりと断りました。
ここ数年,杭データの改ざん,自動車の燃費データの改ざん,免震ゴムデータの改ざんなど様々な改ざんに関する事件が発生しています。私が現場で経験した管理値の改ざん依頼もこれらの事件と似たようなことです。
すなわち,管理値の改ざん依頼も技術者の倫理が問われることです。
冒頭に書いたことは,何とかして仕事を受注したいために犯した罪です。
日経コンストラクションの記事を読んでいて,工事を中断したくないために管理値の改ざんを考えた所長のことを思い出しました。