アメリカの小説家のスコット・フィッツジェラルドが執筆した「グレートギャツビー」という小説があります。アメリカ文学を代表する作品の1つです。
何度か映画にもなりました。映画でのタイトルは,「華麗なるギャツビー」です。「ロバート・レッドフォード」や「レオナルド・ディカプリオ」が,主人公のジェイ・ギャツビーを演じた作品が有名です。
この小説は,以前,野崎孝氏の翻訳本(新潮文庫:こちら)で読みましたが,村上春樹氏の翻訳本(村上春樹翻訳ライブラリー:中央公論新社:こちら)も出版されているので先日読んでみました。
海外の小説を時々読みますが,1つの作品を違った訳者で読むのは初めてでした。感想は,「訳者によって小説の印象が違うなあ・・・」ということです。
野崎孝氏の翻訳は,ゴツゴツした感じです。村上春樹氏の翻訳は,滑らかな感じです。例えば,冒頭の文章を比較してみます。
◆野崎孝氏
「ぼくがまだ年若く,いまよりもっと傷つきやすい心を持っていた時分に,父がある忠告を与えてくれたけど,爾来ぼくは,その忠告を,心の中でくりかえし反芻してきた。」
◆村上春樹氏
「僕がまだ年若く,心に傷を負いやすかったころ,父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は,ことあるごとに考えをめぐらせてきた。」
原文を読んだことはありませんが,野崎孝氏は原文に忠実に翻訳しているのかもしれません。村上春樹氏は,村上春樹氏の作品のような感じがして,村上春樹ワールドで翻訳しているように思いました。
野崎氏「ぼく・父」・・・村上氏「僕・父親」・・・このような違いも,本を読んだときの印象に影響するのかもしれません。
また,こんな訳の違いもあります。
◆野崎孝氏
「ああ,親友」と,彼は言った。
◆村上春樹氏
「やあ,オールド・スポート」と彼は言った。
これは,「old sport」の訳の違いです。村上春樹氏は,原文をそのまま使っています。「old sport」は,主人公のギャツビーが口癖のように言う言葉です。もともとは,「友よ」のような意味だそうです。
村上春樹氏の翻訳本の「訳者あとがき」で「old sport」について書いていますが,村上氏はこの訳語について20年以上いろいろ考えたそうです。結局,「オールド・スポート」が最適との結論に至ったそうです。
私の場合は,村上春樹氏の「グレートギャツビー」の方が読みやすかったです。
最後に余談・・・
“村上春樹”という名前を聞くと(見ると)思い出す場面があります。東京・御茶ノ水にある書泉グランデという大型書店の1階のフロアーです。1985年のことです。
ある日,書泉グランデに本を買いに行くと新刊本が山積みされていました。本のタイトルは「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド:村上春樹著(こちら)」です。そのときまで,村上春樹氏を知りませんでした。
山積みされた本を見ていると,多くの人が手に取り,また,本を購入する人も多かったです。1,800円と高価でしたが,本を購入する人が多かったので,「どんな本だろう?」と思い購入しました。
読み始めたら面白くて一気に読んでしまいました。その時からです。村上春樹氏の小説や随筆などを読むようになったのは。
このブログを書いていると,書泉グランデの1階のフロアーに山積みされた「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が頭の中にまた出てきました。