今回は,「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」を紹介します。
◆「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因:西林克彦著:光文社新書」
これまで,認知心理学に関係したことが書かれた本を数冊紹介しました。また,西村先生の著書もこれまで2冊紹介しました。
__*2016年8月6日:「間違いだらけの学習論」(こちら)
__*2017年3月5日:「あなたの勉強法はどこがいけないのか」(こちら)
認知心理学に関係した本を読むきっかけとなった1冊が,この「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」です。書店でたまたま手に取ったら面白そうだったので購入しました。読んでみると,「なるほど!」の連続でした。
認知心理学とは,1960年代以降に台頭した心理学の一分野です。人間の知覚や記憶,理解と学習,問題解決や意識状態について,深く研究する心理学です。
この本を読んだことがきっかけとなり,認知心理学に関係したことが書かれた本を読むようになりました。
「認知心理学とは,人間の知覚や記憶,理解と学習について深く研究する心理学」と書きましたが,わかりやすい文書を書くこととこれらには密接な関係があります。
例えば,「理解」について考えてみます。
わかりやすい文書を書くうえで重要なことの1つに,「読み手に伝えるべき内容を書き手が掘り下げて理解していること」があります。
「掘り下げて理解していること」について,ここでは,「理解したつもりの技術」と「理解した技術」を例にして説明します。
例えば,住宅を造る様々な工法を紹介する本に,「〇〇工法は木造住宅だけに適用できる」と書いてあったとします。この本を読んだとき,「〇〇工法とはそのような内容か」と理解する場合と,「なぜ,○○工法は鉄筋コンクリート住宅には適用できないのか?」と考えて,○○工法を掘り下げて理解しようとする場合では,○○工法に関する理解度が異なります。
「〇〇工法とはそのような内容か」と理解した内容は,理解したつもりの技術です。なぜならば,理解したつもりの技術のレベルでは,例えば,「〇〇工法は木造住宅だけに適用できるようですが,なぜ,○○工法は鉄筋コンクリート住宅には適用できないのですか?」という質問に回答できないからです。
「〇〇工法は木造住宅だけに適用できるが,○○工法は,なぜ,鉄筋コンクリート住宅には適用できないのだろうか?」と考え,その答えを調べる(考える)ことで,「○○工法」が掘り下げて理解できます。これで初めて,「○○工法」が理解した技術になります。
「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」の中で,西村先生は,以下のようなことを書いています。
その意味で,「わかった」状態は,よく言えば一種の「安定」状態なのですが,逆の言い方をすれば「停滞」状態なのです。「わかったつもり」から「よりわかった」へ到る作業の必要性を,本人が感じない状態でもあるのです。「わかったつもり」は,このような意味で,やっかいな存在です。
・・・(略)・・・
しかし,「わかる」から「よりわかる」うえで必要なのは,「わかったつもり」を乗り越えることなのです。「わかったつもり」が,そこから先の探索活動を妨害するからです。
上の例で考えれば,「〇〇工法とはそのような内容か」という理解が,「○○工法を掘り下げて理解しよう」という行動を妨害しています。
書き手が〇〇工法を掘り下げて理解し,掘り下げて理解した内容を,例えば,報告書に書くことで,読み手にも○○工法が明確に伝わります。
この本では,読解力をレベルアップさせるためには,「わかったつもり」ではなく「よりわかる」にすることが重要だと言っています。
これと同じように,わかりやすい文書を書くためには,「読み手に伝えるべき内容を書き手が掘り下げて理解していること」,例えば,「理解したつもりの技術」を「理解した技術」にすることが重要です。