今回は,「論文の書き方」を紹介します。
この本は名著と言われています。
この本は,論文の書き方に関するエッセイのような内容です。この点が,他の多くの論文や文章の書き方に関する本との違いだと思います。
この本の中で印象に残った2つの内容を書きます。
【短文から始めよう】
著者が東大の学生だったころ,「社会学雑誌」という機関誌に外国文献を紹介するという仕事を与えられたそうです。この仕事のルールは,1千字,すなわち,400字詰原稿用紙2枚半で文献を紹介することです。数百頁の大著述もあれば,わずか数頁の雑誌論文もあったそうです。著者がこの経験を通して得た様々な考え方を本の中で書いています。
書物を読んでいる間は「なるほど」とか「そうだ」とか心の中で相槌を打ちながら読みます。しかし,時間の経過ともに内容を忘れていきます。著者は内容を自分の精神に刻みつけておく一つの方法として以下のようなことを書いています。
・・・読んで理解した内容を自分の手で表現するということである。読んだことを書くということである。・・・・・書く,といっても,ノートのように,己を空しうして,書物のままに,というのではなく,自分の精神を通して,自分自身が書くのである。
また,著者は次のようなことも書いています。
書物を読むのは,これを理解するためであるけれども,これを本当に理解するのには,それを自分で書かなければならない。自分で書いて初めて書物は身につく。
専門書籍を読むときや技術士試験等資格試験で参考図書を読むときに参考になる内容だと思います。
【「が」を警戒しよう】
あいまい性のある「が」を避け,文と文を明確につなげることの重要性を書いています。「論文の書き方」の中で最も有名な章です。
「が」で繋いだ文章はツルツルと読者の心へ入って来て,同時に,ツルツルと出て行ってしまうものらしい。
著者は,次のような例を示して「が」について書いています。
・・・・「彼は大いに勉強したが,落第した。」とも書けるし,「彼は大いに勉強したが,合格した。」とも書けるのである。「が」という接続助詞は便利である。一つの「が」を持っていれば,どんな文章でも楽に書ける。しかし,私は,文章の勉強は,この重宝な「が」を警戒するところから始まるものと信じている。
(略)
・・・・しかし,「が」をやめて,次のように表現してみたら,どうであろう。「彼は大いに勉強したのに,落第した。」,「彼は大いに勉強したので,合格した。」こう書き換えると,「が」で繋いでいた時とは違って,二つの句の関係がクッキリと浮かび上がって来る。
(略)
・・・・「が」の代わりに,「のに」や「ので」を使うとなると,二つの事実をただ一緒に掴んではいられない。二つの事実の間の関係を十分に研究し認識していなければならない。
著者は,「人間の精神が能動的姿勢になることで『のに』や『ので』を嵌め込みことができると」とも言っています。
精神がモヤモヤした状態では「が」を使うことから抜け出せないということだと思います。
この本を読んだ直後は「が」の使い方に気を付けていました。でも時間の経過とともに,「が」の使い方がいいかげんになりました。
「論文の書き方」の紹介を機に,再度,「が」の使い方に気を付けたいと思います。